2014/01/12

Nepal-126: 制憲議会選挙~続報

前回の記事からだいぶ間が空いてしまったが、先月行われた制憲議会選挙(憲法を作るメンバーを決める選挙)の結果を一応書いておこうと思う。
幸いにも選挙は無事に終わり、その後も特に大きな混乱は見られないようだ。
注目の選挙結果は、親インド派ネパール会議派(コングレス)が全601議席中196議席を獲得し第一党となった。
ついで、穏健派のネパール共産党統一マルクス・レーニン主義派(CPN-UML175議席で第二党。
一方、あのマオイストはというと、たったの80議席しかとれず大敗となった。
まぁ、これが前回の選挙以降の彼らに対する評価なのだろう。
マオイストはマオイストで「選挙に不正があった」と主張しているようだが、これもある意味、予想通りの反応なので誰にも相手にしてもらえないようだ。
大負けしたことで逆ギレして、また武装闘争を始めるという懸念もあったが、どうやら既にその力も失くなっているようである。
これで停滞していた憲法作りが、ようやく再開されそうである。
ただ、第一党のコングレスも単独過半数には届かなかったので、協議でまた揉める事になりそうだ。
それでもネパール最初の政党であるコングレスが第一党になったので、いくらかは期待が持てそうではある。
私としても、中国が後ろで糸を引いている(であろう)マオイストよりも、インド寄りのコングレスの方がよっぽどマシな気がする。


しかし、ネパールにしてみれば国家の一大イベントなのに、結局、日本のニュース番組ではどこにも取り上げてもらえなかったようだ。
いつも思うことだが、日本のニュース情報番組は海外のそれに比べて、あまりにも幼稚過ぎる。というか、そもそも情報量が少な過ぎる。
海外ニュースなどはトップ記事レベルのものだけをサラッと表面だけ触れるだけで、後は正直どうでもいい地方ネタや動物ネタなどを紹介し、アナウンサーたちが毒にも薬にもならないコメントを付ける様を延々と流していたりする。
最近は天下のNHKですら、そんな軟派な番組が増えてきた。
そのほうが視聴者が見やすいと思ってるのかもしれないが、いい歳こいたアナウンサーたちが内輪のノリでワイワイキャッキャ言ってるのを見ると、国全体がゆとり化してるようで何とも言えない気分になる。
どうせならいっそのこと、25歳以下の水着の女子アナだけでやれ、と言いたい。

閑話休題。
ところで、インドと中国が犬猿の仲だということは、広く知られている。
共に近年目覚ましい経済発展を遂げている大国だが、ネパールはこの両国に挟まれるように位置している。
海に面しておらず、これといった産業も資源も無いネパールは、現実問題として隣国に依存しなければやっていけない。
特に文化・宗教的に近しいインドとは、経済的に見ても決して切ることのできない関係なのである。
例えば、ネパールの通貨はネパール・ルピーだが、この通貨とインド・ルピーの両替レートは『1.61』に固定されていて、個別に取引される事はない。
ちなみに、ネパールでインド・ルピーは普通に使えるが、インドではネパール・ルピーは使えない。
これがネパールとインドの関係を端的に表していると思う。
つまり、ネパールは経済的に言って、インドの付属物のようなモノなのだ。
しかし、そのネパールで最近、反インド的な言論がしばしば目につくようになってきたのである。

一番よく耳にするインド批判は、インド政府がブッダの出生地をインドと主張し、学校でそう教育している事に対するものだ。
ちなみに、ブッダが生まれたのは、現在のネパール南部のルンビニという場所である。
ただ、悟りを開いたのも、説法して回ったのも、入滅したのも現在のインドなので、完全な間違いだとは言い切れない気もする。
大体、その頃はまだインドという国もネパールという国もできてなかったのに、今になって2600年前の人間の出生地の事で言い争うことに意味はあるのだろうか。それも両者の力関係がまるで違うというのに。
というか、そもそもネパールに仏教徒は一割しかいないだろ、と。
他にも、インドから輸入される鶏卵がネパールの養鶏業を圧迫している事への批判や、インドの警察が越境捜査をした事への抗議で、インド・ナンバーのバスなどが焼き討ちにあったり、崖から落とされたりといった話も何回か聞いた。(幸い死傷者は出ていないようだが)

隣国とのイザコザはどこの国でもあるだろうが、しかし、ここ最近の反インドの風潮には何となく不自然な感を覚える。
私の勝手な推測だと、ここ最近の反インド・ブームの裏には、中国の思惑が潜んでいるような気がする。
ネパールとインドの関係を悪化させて、その間に割り込もうという魂胆ではないだろうか。
現に中国は内戦中、マオイストに武器を供与していた。
中国のこういった支援がなければ、マオイストは親インドの政府軍に勝てなかっただろう。
そのマオイストが停戦後の選挙で大勝し、与党となった。
中国政府にしてみれば、ネパールという国をインドから引き離し、自分たちの影響下に置く千載一遇のチャンスだったはずだ。
ネパールには豊富な天然資源が眠っている、と言われている。(哀しいかな、それを掘り出す技術をネパール人は持ってないが)
地理的にもインドの喉元に位置するネパールは、領土的野心に燃える中国にとって魅力的な土地だろう。
インドと対立するようになれば、ネパールはもう一方の大国・中国に頼らざるを得ない――――そんな離間工作の思惑が一連の反インド論からは感じられる。

問題なのは、ネパール人の多くがそんな煽動にアッサリ引っかかってしまうシンプルな思考の持ち主だ、という事である。
自分の国が、自分たちの生活が、一体何によって支えられているのか理解する事も無く、思考停止してシュプレヒコールを挙げている者が多過ぎる。
貧しいなりにも自立してやっている、自分たちに誇りを持っている――――そんな根拠の無いプライドすら見え隠れする。
いやいや、全然自立できてませんから。
世界中の国々から援助されまくって、おんぶに抱っこ状態ですから。
原油価格が高騰した時なんか、インドからガソリンが入ってこなくなってバスまで止まったってのに、もう忘れたんですか?
とは言え、それも今回の選挙結果によって、かなり風向きが変わってくるだろう。

客観的に言って、ネパールの発展にとってインドとの協力関係は最も重要なファクターだろう。
地政学的にも、ネパールと平地で繋がるインドは、間にチベットを挟んだ中国より断然近い。
確かに中国は今、東南アジアやアフリカに多額の援助や投資をしているので、協力相手としては魅力的かもしれない。
インドと距離を置けば、そういった資金をネパールに呼びこむことは可能だろうし、短期的にはネパールの発展に繋がるだろう。
しかし、中国の領土的野心や産業独占体質といったリスク、また、中国の将来的な政情不安を考えると、ここはインドを通じて西側諸国との関係を強めていく方が良い気がする。
まぁ、インドという国も決して品位にあふれた国ではないから、当然、前述したような摩擦はこれからも起こるだろう。
それでもネパール人は、両国の力の差とネパールという国の現状を謙虚に受け止め、忍耐強く――――戦後日本人がそうしたように――――国の発展に取り組んでいかなければならない。

忍耐強くコツコツと積み上げる――――それがネパール人が今までやってこなかった事であり、そして、今まさにやらなければならない事なのである。多分。

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