2013/01/30

Nepal-107: 数学コンテスト ④

2012年10月下旬。コンテスト当日まで、あと10日――――いよいよ今日から参加者の受付が始まる。
参加希望者は、主催であるAAEE(アジア教育交流研究機構)の番号に直接電話して、名前と学校名を登録する。
その参加者の情報は後で私がリストにまとめ、それぞれに席番号を割り振る予定だ。
これは、会場で同じ学校の生徒が固まらないようにする事で、不正行為を抑止するための策である。

受付はネパール人スタッフがやるので、私はいつもの様にSG小学校に行き、特別クラスを開いた。
そして夜、私は受付係に電話をし、今日どれくらいの登録者がいたかを尋ねた。
「まぁ、初日だし、20人くらいは集まってるかな」などと思っていた――――が、結果は驚きの3
あれだけ走り回って、ラジオでも新聞でも告知したにもかかわらず、たったの3人‥‥‥‥。
なんというか、根本的な戦略に問題があったような気がしてくるが、とりあえずまだ始まったばかりなので、もうしばらく様子を見ることにする。
もしかしたら、ここから徐々に増えてくるかもしれない。

だが、そんな淡い期待を嘲笑うかのように、数日が経っても参加者の数は一向に増えなかった。
もしかして、ラジオ聞いてる人って少ないのか?
このままでは参加者全員が入賞――――なんて事態にもなりかねない。
まさにKH学園理事長の懸念が的中した形だ。
追い詰められた私とS先生は、この状況をどうするか話し合った。

状況を考えると、今後、自然に参加者が増えていく可能性は極めて低い。
元々、ダサイン休み中の開催では学校側の協力が得られないので、参加者集めが一番の課題になる事は分かっていた。
それでも、メディアで個人に参加を呼びかければ、関心を持ってくれる学生は少なくないように思えた。
しかし、ラジオや新聞の情報伝播力は、予想よりはるかに弱かったようだ。
関心を持つ持たない以前に、ほとんどの学生がまだコンテストの開催を知らないのだろう。
S
先生は、開催を休み明けまで延期したほうがいいのではないか、という意見だった。

実は当初から、この「休み明け開催」という案はあった。
しかし、私が休み明け前に帰国しなければならないという事情もあり、相談の上、リスクはあってもダサイン休み中に開催することになったのだ。
今回のコンテストでは準備から本番まで、ほぼ全て私が指揮することになっている。
さらに、テスト問題も私がほとんど一人で準備しているので、採点も私が自分でやる必要がある。
この状況で、問題と解答だけ渡して「後はよろしく」と丸投げした場合、かなりの確率でグダグダなコンテストになるだろう。
そんな事になっては、これまで協力してくれた人々に申し訳ないし、私自身、後悔することになる。

行動というものは、『じっくり考える段階』と『迷わず実行する段階』の二つに分ける必要がある、と私は考える。
始める前にまずじっくり考え、最良の手法や筋道を探る。
そして、決断を下したなら、後はやり遂げることだけを考えて実行する。
迷いを持ったまま行動しては、たとえその選択が正しかったとしても成功の可能性は低下する。
逆に、たとえそれが最善の選択ではなかったとしても、迷わず突き進めば道が開けることもある。

確かに状況はかなり悪いが、それでも想定外の要素が出てきたわけではない。
むしろ、このくらいの逆境で尻込みしているようでは、これから先も大したことはできないだろう。
今は真っ直ぐに突き進むべき時機だ――――そう私の勘が告げている。

話し合いの末、S先生は当初の予定通りにコンテストを実施することを了承してくれた。
ただ最後に、「参加者20人くらいでの開催になることも覚悟してください」と念を押された。
だが、この言葉のお陰で、私は完全に吹っ切れた。
大々的に宣伝したイベントが失敗して大恥をかくならば、それも仕方ない。
自らの能力不足を謙虚に受け入れて、次に活かせばいいだけの話だ。
私の心には最早、迷いも恐れも無かった。

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