2015/02/06

イスラム国邦人人質事件 その1

イスラム国によって日本人2名が拘束され、日本政府に身代金が要求された事件は、人質の殺害という結末に終わった。
しかし、この事件の影響、日本人を取り巻く情勢の変化は、むしろこれからが本番と言える。
今回の事件をめぐり、報道番組などでは連日多くの知識人がそれぞれの意見を発しているが、極めてデリケートな問題だけに、それらはどうにも似通った結論に落ち着いてしまう傾向が見られる。
そこで私は一人の日本人として、今回の事件を振り返り、我々がそれをどう受け止め、どう今後に備えるべきか、自分の拙い解釈と考えを述べたいと思う。


まず結論から言うと、今回の【人質2名の死亡】という結末は、遺族には大変気の毒ではあるが、最も現実的な落とし所であったと思う。
こう書くと、「ひとでなし」とか「冷血漢」などと批判する方もいるだろうが、私の予想では、口には出さずとも、恐らく日本人の大半は同じような考えを持っていると思う。
しかし、仮にテレビ番組でコメンテーターがこんな事を言おうものなら、視聴者からのクレーム殺到で干されるのは間違いない。
視聴者とスポンサーの間に成り立っているテレビ業界は、性質上、少数の批判すら受けないような無難な番組にせざるを得ないからだ。
であるからこそ、たとえ知識では専門家の方々に及ばなくとも、何の利害関係も持たない中立な立場にある私が、一連の出来事を客観的に考察し、自分の意見を述べる事に意味はあると考える。

ではまず、【イスラム国=ISIL】がそもそもどんな集団なのか、私なりの解釈を述べてみようと思う。
【イスラム国】は、あの9.11アメリカ同時多発テロを行った【アルカイダ】から分離した組織で、指導者はバグダディという人物である。
一般には、彼らがあまりに過激すぎたため、アルカイダですら手に負えなくて破門された、と言われている。
彼らの目的は、まず既存のイスラム諸国を統合して強大な【イスラム帝国】を建国し、宿敵である欧米諸国からかつてのイスラム帝国の領土を奪還し、最終的には全世界をイスラム教化することらしい。
まぁ、簡単に言えば【世界征服】である。
以上の事だけでも、彼らがどれくらい痛々しい集団か、何となく分かると思う。

イスラム過激派組織は世界中に数多く存在するが、この【イスラム国】が特異なのは、彼らが自分たちを唯一正当なイスラム国家と位置づけ、全てのイスラム教徒が自分たちに従わなければならない、と主張している点だ。
指導者のバグダディはまだ40代半ばという若さでありながら、世界中のイスラム教指導者たちを差し置いて、自ら【カリフ】(=ムハンマドの後継者)を名乗っている。
これはつまり、既存のどのイスラム教の権威も尊重しない、という宣言であり、まさに『天上天下唯我独尊』を地で行っている。
ともすればイスラム世界すらも敵に回しかねないこの無茶っぷりは、もはや何も考えてないとしか思えない。

思うに、彼らは【真のイスラム教徒】を自称してはいるが、その本質は、既存のルールを無視して好き勝手やりたい人間が集まった、【北斗の拳のモヒカン軍団】みたいなモノなのではないだろうか。
特に欧米から【イスラム国】に参加している外国人や、【イスラム国】を支持する者たちの言動を見ていると(あくまでもメディアを通してだが)、そんな印象を強く受ける。
彼らには、いくつか共通点がある。
まず1020代と比較的若い年齢層で、知識と経験に乏しく、社会的地位が低く、自分の現状に不満を抱え、―――そしてこれが一番のポイントだが―――社会を憎んでいる。
彼らのほとんどはイスラム系移民の23世のようだが、そうではない元々の住人で、キリスト教から改宗した人間も少数ながら居るようだ。
資本主義社会において、移民の家庭の多くが低所得層に属するのはある意味、自然な事であるし、低所得層出身の子供が教育や就職で不利になるのもまた、自然な事である。
それでも努力と才覚次第では、いくらでもチャンスはあるのだが、現実にサクセス・ストーリーを歩めるのはごく一部で、それ以外は親世代と同じ低所得層に甘んじるしかない。
彼らの親や祖父母である移民1世は元々、そんなチャンスすら無い、より貧しい国から渡ってきた者たちなので、たとえ移住先の国で貧しい生活をしていたとしても、ある程度、現状に満足している部分もあるだろう。
しかし、そこで生まれた子供たちにとっては、自分たちの境遇は不公平で理不尽なものでしかない。
なぜ自分たちが他の白人のキリスト教徒の子供たちと比べて、こんなにもハンデを背負わされなければならないのか、彼らには納得出来ないだろう。
その不満はやがて【被差別者意識】となり、そういった【差別】や【不条理】を押し付ける社会そのものに対して、徐々に反感を強めていくのである。

キリスト教から改宗して【イスラム国】の支持者となる若者も同様で、自分の現状に大きな不満を抱えているが、その原因が社会にあると考えている。
彼らのほとんどは教育システムからドロップアウトした落ちこぼれで、無職あるいは底辺の仕事をしているか、犯罪に手を染めている者たちだろう。
この種の人間は、自分を省みることは決してしない。
今、自分がしょーもない状況にあるのは、今までしょーもない生き方をしてきたしょーもない人間だからだとは、絶対に認めない。
自分が悪いのではなく、社会が悪い。
しかし、基本的にバカなので、社会がどう悪いのか自分の頭では説明できない。
そこに優しい顔したヒゲモジャ男が近付き、理解を示すフリをしながら過激思想に誘導するのである。

ちなみに、日本からも北大生が【イスラム国】に参加しようとして当局に阻止された、とニュースになった。
この学生の場合は、前述の【低学歴】という条件には当てはまらないように見えるが、まぁ、本人の供述などを見る限りは、同レベルのバカであるのは間違いない。
恐らく彼も現実に強い閉塞感を感じていて、非日常の世界に逃避しようとしたのだろう。
明確な自己が無いから、イスラム教徒になる事にも抵抗が無い。
何も信念が無いから、【イスラム国】の目的にもバグダディの野望にも無頓着。
現実に対する想像力が欠けているから、異国でテロリストになるという選択を平気でしてしまう。
この北大生といい、あの名大生といい、日本の教育には人間にとって最も重要なことを教える課程が欠落しているようだ。

以上のような若者たちが、居場所を求めて世界中から【イスラム国】に集まっているのだろう。
これまでの彼らの主張や活動からは、今ひとつ【確固たる信念】といったものが感じられないのは、まさしくそこに理由がある。
政権打倒や米軍追放など、明確な目的を持った他の過激派組織と比べ、【イスラム国】のヴィジョンはあまりに漠然としているのは、元々そんなものを持っていないからだ。
精神的な未熟さ、現実への不満、秩序への反逆、破壊願望、破滅願望‥‥‥‥その程度の共通点しか無いバラバラの人間たちが、イスラム原理主義というお揃いの仮面を被って群れている。
これが【イスラム国】という集団の本質なのだ、と私は考える。

(つづく)

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