2013/08/09

Nepal-120: 2013年度入試 (前)

今年、生徒たちが受験する学校は、最終的に二つの候補に絞られた。
一つはポカラで最も評判の良い学校のひとつである『マザーランドHSS』(以下、マザーランド)という学校で、生徒数は1500人ほどに及ぶ。
ちなみに、ここの校長とはFMラジオ・チュヌムヌのオフィスで会ったことがある。
彼自身も数学を教えているので、その時はまだ構想の段階だった数学コンテストの話にも大いに関心を示してくれた。
また、根本的な『教育』の考え方にも、私の意見と共通する部分が多かった事を覚えている。

もう一つはあまり有名ではないが、昨年の数学コンテストで優勝者を始め、何人も上位入賞者を出した『KEF HSS』(以下、KEF)という学校だ。
数学コンテストの成績だけで全てを判断することは出来ないが、彼らの答案からは基礎力の高さが感じられた。
生徒の基礎力が高いということは、教師がポイントを押さえた丁寧な指導をしている事を示しているように思う。
それには学校の方針だけでなく、教師自身のやる気が不可欠である。
私が学校選びで最も重視するのは、「教育の質向上に対する熱心さ」である。
私立校の中には教育の質よりも、学校の規模を拡大して儲けを増やすことしか考えていないようなのも多い。
KEF
は生徒数がマザーランドの半分ほどとそれほど大きい学校ではなく、校舎もこじんまりとしているが、「名を捨てて実を取る」ような雰囲気に好感を覚える。
マザーランドとKEFはどちらも教育そのもの、つまり、生徒の将来を第一に考えていると見る事ができる。
それが私がこの二つの学校を候補に選んだ理由だ。


試験日は、マザーランドが413日で、KEFがその翌日の14日と連続していた。
これは試験のために村から出てくる生徒たちにとっても都合が良かった。
ビル、シュレンドラ、スリジャナ、サンジェイの4人は、前日の12日からホステルに泊まり込み、最後の追い込みをかけた。
一方、プシュパの妹も母親と一緒にポカラに到着した、と連絡があった。

マザーランド入試当日、私は初めてプシュパの妹・ジャラナに会った。
10
歳には見えないくらい細くて小さい、しかし、可愛らしい女の子だった。
プシュパの話では人見知りする性格だということだったが、初対面で、しかも外国人の私に笑顔で挨拶してきたのは意外だった。
目や顔付きなどを見た感じ、利発そうな印象を受ける。
だが実際、どの程度の学力があるのかは未知数なので、今日の試験に合格できるかどうかには不安もある。
言うまでもないが、彼女が私のホステルに入るためには、今日のマザーランドか明日のKEF、少なくともどちらかの試験に合格しなくてはならない。
その点に関してはサンジェイも同様だが、彼の学力はだいたい把握してるので、二つとも落ちるという事は無いだろうと踏んでいる。

試験は二時間ほどで終わった。
早速、出てきた子供たちにどうだったか尋ねると、彼らは皆一様に「難しかった」と答えたが、ある程度の手応えは感じているようだった。
ただ一人、ジャラナだけがひどく自信無さげに見えた。
プシュパが心配して話を聞くと、どうやら筆記用具を持ってきていなかったようだ。
その上、試験が始まってもそれをなかなか言い出せず、結局、試験官が気付いてくれるまで10分以上も無駄にしてしまったらしい。
これはちょっと厳しいかもしれない、と考えていると、そこへひょこっと校長先生が現れた。
私が生徒たちを紹介すると、校長先生も気さくに生徒たちに話しかけ、試験の感想などと聞いていた。
その後、彼は生徒たちの名前をメモにとり、後ほど試験結果を電話で知らせてくれると言った。
どうやら、その日にうちに結果が出るようだ。

マザーランドの試験が終わり、プシュパ一家は自分たちの宿に帰っていった。
私も子供たちとホステルへ帰り、遅い昼ごはんを食べた。
その後は、明日の試験に向けて、また追い込みをかける。
彼らもマザーランドの結果が今日中に出ることは知っているが、その事は考えないように言ってある。
私も結果を聞いても、明日の試験が終わるまでは教えないことに決めていた。
もしマザーランドに合格したとしても、それを教えたら無意識にKEFの試験に手を抜いてしまう可能性があるからだ。
むしろ、私としてはKEFの方が本命なので、こっちで本気を出してもらわなければ困る。

夕方5時頃、マザーランドから電話が来た。
校長先生がわざわざ自ら結果を連絡してきてくれたのだ。
私は生徒たちに聞かれないよう離れて、それぞれの試験結果を聞いた。
結果は、ジャラナ以外の4人が合格、というものだった。
それを聞いて、私はとても複雑な心境になった。
まず、自分の生徒が全員合格という結果はとても誇らしく思うし、これでサンジェイのホステル入りが決まったという安堵感も大きい。
しかし一方で、ジャラナにはこれでもう後が無くなってしまった。
もし明日のKEFの試験にも落ちてしまったら、ジャラナは母親と一緒に村へ帰らなければならない。まさに崖っぷちだ。
仮にジャラナが村に帰ることになったとしても、プシュパが寮母になることを撤回するとは考えにくいが、万が一という事もある。
全てが丸く収まるには、何としてでも明日の試験に合格してもらうしかない。

とりあえず私は、プシュパに連絡して結果を知らせた。
それを本人に伝えるかどうかは彼女の判断に委ねたが、そのかわり、ジャラナに試験のコツや心構え的なものを話すように頼んだ。
明日までに学力をアップさせる事など出来ない以上、持っている力を出し切れるようにアドバイスするしか方法は無い。
後は本人の力を信じるだけである。

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