2013/08/03

Nepal-119: 受験シーズン

前回書いたように、私は今年、新たにサンジェイという男の子をホステルに加えようと考えていた。
しかし、それにはまず、彼がポカラの私立校の入学試験に合格しなければならない。
さて、その入試に関してだが、私は昨年までとは少し違ったやり方をしてみようと思っていた。

これまでは候補の生徒に、ホテル『マウンテン・ヴィラ』の親戚が経営する『KH学園』の入試だけを受けさせていたが、今年は別の学校の試験も受けさせてみようと考えている。
その理由は、最近KH学園の教育の質に対する疑問にある。
というのも、KH学園の卒業生はあまり評判がよろしくなく、また、定期テストの問題をチェックしたり、ビルやシュレンドラに授業の様子を聞いた限りでも、あまり教師の質やモチベーションが高いようには感じられないのだ。もしかしたら、ビルたちの欠席日数が多くなったのには、こういった背景もあるのかも知れない。
そもそも、安易に知り合いの経営しているKH学園を選んでいたのは、他にツテも無く、情報も乏しかったからだ。
しかし今、私の手元には、去年、数学コンテストを開催した時に集めたポカラ中の私立校のデータがある。
さらに、その中でも有名ないくつかの学校へは見学に訪れたこともあり、それらの校長先生たちとも知り合うことができた。
もはやKH学園にこだわる理由が無いのならば、より多くの選択肢を与えて本人に選ばせるほうが、生徒の主体性を育てる上でも有意義だろう。
それに、大きなプレッシャーの中で能力を発揮しなければならない入試という実戦経験は、出来るだけ多くこなしておいた方が後々有利になる。
というわけで私は今回、サンジェイだけでなく、現在、KH学園に在籍しているホステルの3人にも、別の学校の入試(編入試験)を受けさせてみることにした。

サンジェイはともかく、ビルとシュレンドラとスリジャナの3人にも入試を受けさせるということは、当然、受かれば転校する可能性があることを意味する。
ただ、ネパールでは日本と違って、引越しなどとは関係なく、途中で学校を変えることが珍しくない。
SG
小学校から突然、私立校に転校していった生徒は何人も見てきたし、ふと気がつけば見たことのない生徒が座っているということも稀によくある。
そんなネパールだからこそ、積極的により良い学習の場を探してみようと思ったのだ。
もちろん「KH学園に残りたい」と言うなら、それでも構わなかったのだが、本人たちも受けてみたいと言っている。

さて、そんな感じで入試の準備を進めていると、プシュパから「話がしたい」とメールが入った。
どうやら、ホステルの寮母を引き受けるかどうか決まったらしい。
というわけで、私は早速、彼女の居るシャムロック・スクールに顔を出した。
彼女はすぐに現れ、私たちは空いてる教室に腰を落ち着けて話すことにした。
一応、この話はまだ内密なものなので、そこら中を歩きまわってるシャムロックの生徒たちに聞かれたくないからだ。

結論から言うと、プシュパは寮母を引き受けることに決めたようだ。
彼女の親も賛成してくれているという。
シャムロックの教師たちにはまだ話してないようだが、こういった事はまずシャムロックの創設者であるD氏に話しをするのが筋だろう。
優秀な人材をより良い条件で引き抜くのはよくある事だし、よもや、ビジネスマンのD氏がそれについて文句を言ってくるとも思わないが、一応、形だけでも同意を得ておきたい。
彼は今、ネパールには居ないので、夜にでもメールをしておこう。

とりあえず、今日のところはこれで話は終わりだ――と思ったら、何やらプシュパが「相談したい事がある」と言ってきた。
彼女の相談というのは、彼女の妹に関することだった。
プシュパには妹が二人居り、二人とも実家のある田舎で学校に行っているという。
上の妹は勉強に全く関心が無いようだが、来年5年生になる下の妹(9歳)はかなり勉強熱心で、成績も学年トップらしい。
ただ、彼女の学校は私立ではあるものの、都市からかなり離れているので、その水準はポカラの私立校に比べるとだいぶ劣る。
母親としては、この下の妹もシャムロックに入れたかったようだが、それをプシュパが「シャムロックはやめたほうがいい」と止めたのだという。
というのも実は、ここ数年でシャムロックの主だった教師たちが次々に辞めてしまい、学校の質が以前とは比べ物にならないくらい落ちてしまっているのだ。
教師たちが辞めていった理由は主に給料の安さにあるようだが、問題の本質は『あまりにもテキトーな学校の管理体制』にあるような気がする。
そんなわけで、D氏は辞めた教師たちの穴埋めとして、プシュパのようなOBOGを使い始めたというわけだ。
しかしその後も、ここには書けないような様々な問題が頻発した結果、ほとんど授業の無い日が続いたり、愛想を尽かした生徒が多数辞めていくなど、グダグダでワケわからん状態になっている。
こんな状況では、とてもじゃないが妹を連れてくることなど出来ない――――と、プシュパは考えたようだ。
そこで彼女は、もし私のホステルに入るための試験があるなら妹に受けさせたい、と言ってきた。
だがもちろん、そんな試験など私はやっていない。

私がホステルに入れる生徒を選ぶ基準は、学力だけでなく日頃の生活態度や学習に対する姿勢、向上心など、様々な要素を総合的に見て判断している。
別にSG小学校の生徒だけに固執してはいないし、部屋のスペース的にもあと2人くらいは入れそうだから、もしプシュパの妹が本当に優秀なら断る理由は無い。
まぁ、実の妹だし、学年トップという話だから、おそらく頭は良いのだろう。
勉強熱心でもあるという事だし、たとえ現時点での学力が高くなくても、12年もあればポカラのレベルに追いつけるはずだ。
末っ子なので精神的にまだ幼いようだが、親元を遠く離れての生活も姉のプシュパが一緒なら何とかなるだろう。
プシュパに聞いた限りでは、サポートするに足る条件は満たしているように思える。
しかし、身内の贔屓目というものもあるだろうし、やはり実際に自分の目で見てみないと何とも言えない。
それにサンジェイ同様、そもそも入試に合格できなければポカラの私立校には入学できない。
私はとりあえず、彼女にもサンジェイたちと一緒に試験を受けさせてみることにした。
その時に本人をじっくり観察して、ホステルに入れても問題無いかどうか判断しようと思う。

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